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編みかけのことば——1

「蛙の眼鏡」



春の寝床で耳を澄ます。

 

目はつぶって、じいっと動かずにいると、

蛙たちの鳴き声が聞こえてくる。

かすかに、

細く紡いだ千切れやすい糸のように、

とぎれとぎれに。

鼓膜の奥からのばした音の道を伝って、

今年も、あの池の淵から、親しみのある声が届く。

 

うちにも木彫りの蛙が一匹いる。

ドンツーと名前をつけた彼を見て、

来客の小さな女の子が、

このカエルは、どうしてひとりでいるの?

と、尋ねたことがあった。

ドンツーにも、池に棲む彼らの声は聞こえているのかどうか。

 

台所脇の棚の上で、ドンツーは、

いつもどこか遠い目をしているように感じていた。

そうか。

私と同様に、近くのものが見えにくくなっているのかもしれない。

そう思い立ち、

特注眼鏡を作ってあげることにした。




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