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編みかけのことば——3
「羽と水仙」
散歩で見つけた鳥の羽は、
帰ってから、『野鳥の羽根図鑑』で持ち主を探す。
図鑑はずっしりと持ち重みがあり、
本棚の一番下からいそいそと引きずり出して、
描かれた羽の絵と、実物とを照らし合わせる。
茶系のしましまは、トラツグミの尾羽。
黒地に白い水玉は、コゲラの風切羽。
誰のものかがわかるとなんだか愉しい。
1930年代、アメリカの田舎町が舞台の映画『アラバマ物語』では、
子供たちが木の洞に宝物をしまっていた。
壊れた時計やビー玉に混じって、
鳥の羽もあっただろうか。
私の父は、外を歩けば何かを拾ってきたものだった。
木の実や虫の死骸、よくわからない何かのかけら、
ずいぶん前の夏に帰省した折には、セミのぬけがらが、
居間のテーブルの上にずらりと並べられていた。
先週、母に電話して父の様子を聞くと、
最近は毎日、散歩の途中に、
川原で野生化している水仙を摘んでくる、と言った。
摘んだことはすっかり忘れて、
翌日には、また新しく素手に握りしめてくる。
生ける花瓶が足りなくなった母は、
つぎつぎコップに挿しているらしい。
眠りにつくとき、
しばらく訪れていない、あの居間を想うことがある。
夜半、暗闇でうつむく白い水仙たちの、
深い息づかいと静けさ。
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