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編みかけのことば——7

「はじまりの冬」


お湯が沸くまでの時間を長くする。

花芽をつけるよう、枇杷の木から順番に肩を叩く。

つぐみたちを集合させ、長旅の日程を伝える。

軒下をくぐり、

部屋のいちばん奥まで光のレールを敷く。

釣れるくらいたくさんの星を磨き、

空にばらまいておく。

ウグイスや、

蝉や、

コオロギのような、

季節の到来を告げる担当をもたないから、

冬は、

自分で自分のはじまりを用意する。

やがて、

隙間風に障子をがたつかせ、

木枯しに荒波のとどろく音を教え、

枝先の葉を一切合切かっさらってから、

地面と水面を踏み固めると、

冬はようやく安心して、

雪を降らせ眠りにつく。




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