1 日前
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編みかけのことば——8
「チャペ爺」
台風が近づいていた朝、
大きな音がして目が覚めた。
どこかで何かを、おもいっきり叩いている音だ。
かたわらの時計を見ると、まだ5時前だった。
寝床でぼんやり、音の出どころを探るうち、
チャペ爺が、庭で植木の添木を作っているのかもしれない、
と気がついた。
台風が来る前に、庭の応急処置をしているのに違いない。
「チャペ爺」は、通りかかるとたいてい庭仕事をしていたから、
きびきびと立ち働く姿が、
カレル・チャペックの、
『園芸家12カ月』にでてくる勤勉で飄々とした主人公と重なり、
わたしが勝手に心の中でそう呼んでいた。
2年くらい前に、思い切って、
こんにちは、と挨拶をすると、
チャペ爺は、
あ、どうもどうもこんにちは。ありがとう。
と、振り向いて言った。
トレードマークのようにいつもかぶっている赤いニット帽、
似合うよなあ、と思った。
それ以来、少しずつ挨拶をかわすようになった。
おはようございます。
どうもどうもおはよう。ありがとう。
さようなら。
どうもどうもさいならあ。ありがとう。
声をかわすたび、
沈みかけた真夏の太陽の下、
ホースでたっぷり水をかけてもらう草花たちのように、
わたしは新鮮で嬉しい心持ちになった。
月日が経ち、わたしが「チャペ婆」となったなら、
気のおけない挨拶ができる相手は見つかるだろうか。
‥‥‥‥‥‥
風音が次第に強くなってきた。
窓の外をのぞくと、横なぐりの雨も降りはじめ、
うちの小さな庭には、もう水たまりができている。
遠くで杭を打つ甲高い音が、
次第に、速さを増す。